面接をためらわない
今年の夏、漫画『届かない第2楽章』執筆準備の際には、Blenderで少し手のかかる3Dデータを作成しました。
漫画のシナリオによっては、一度しか登場しない、この先もう再会することが無い人物が、重要な意味を持つ場合があります。
そうしたシナリオのために、読者から好感を持ってもらえそうな人物を迅速に作成できるようにしておこう。
そう考えて、主役の女の子たちの3Dデータのパーツ複製を持ち寄って、一つの作業ファイルにまとめました。
ゲスト出演のために、人間の女の子を作成するためのファイルです。
Sylph_Typicalと、ファイル名をつけています。
ファイル名を見て、内容や作った時期を思い出せるようにしておくことは、パソコンで作業する時の基本ですが、私がこれまでBlenderで作ってきた3Dデータには、ファイル名にtypicalと付けたものがいくつかあります。
草原の書割がMeadow_Typical、水の質感を表現するデータ群がAqua_Typical、という具合です。
だから、今回の女の子のファイルにはシルフと名付けておきました。
外見上は主役たちと同じようになっていますが、ファイル内でのパーツの使い方などを少し変えています。
主役のリンナミーシャは6.5等身ですが、こっちは初期状態で8等身にしてある点など、関節各部にも変化をつけてみました。
8等身にしておいたのは、作品公募にも使おうと考えたからです。
Pixivでも、作品募集というトピックを見かけます。絵や漫画に所定のタグをつけて投稿する、という類です。
けれども、Pixivでの作品募集には申し込まないことにします。
仕事をもらうために申し込むのなら、やはり作品を直接持ち込む機会しかないでしょう。
作品を審査する人に、本当に見てもらおうと思うのなら、郵送ではなく、先方の会社へ直接持ってゆくこと。
漫画家を目指したことが一度でもある人なら、誰でも聞いたことがあるはずです。
採用の是非を決める権限を持つ人が、作品を見て審査するところを、自分の目で見ることです。
いい人に必ず出会えるわけではありません。
私たちの話を聞かない人だっています。
平気で私たちを侮辱する人もいます。
作品を見ようともせずに、採用するつもりは無いと言い放つ人もいます。
それでも、相手の生身の態度を見ることができます。
しかるべき収入になる職に就こうとすれば、面接は必ず受けることになるんです。
そして自分が面接を受けると同時に、相手がどんな人間なのかを知る必要もあります。
郵送したのでは、どんな人が作品を見たのかも分からない。
まして、Pixiv上でタグをつけるだけというコンテストでは、人間味のある対応のはずが無いでしょう。
閲覧や評価・ブックマークの数で線引きされたり、AIから何らかの基準で選別されたりして、切り捨てられているはずです。
機械的なふるい分けで残らなければ、先方の社員と話す機会も無い。あるいは、最後まで先方の顔も声も知らずに終わるのかもしれない。
Pixivは、私が作品のURLを添えて問い合わせても無関係に、わいせつな投稿をしていると決めつけていた。
イラストばかり重んじるのでは、庶民が誰でも参加できるプラットフォームなのか。表紙や看板を描いて事業の顔役をする絵描きのことしか見ていないのではないか。
線引きの基準も、会員への伝え方も納得できない。
木で鼻をくくった態度は面白くないけれど、一介の庶民が大企業にメールを送る程度では、こんなものでしょう。
現実として今の私は、充分な仕事を探すために力を注がなければなりません。
「嫌なら、優れた作品をアップして、高いページビュー・ブックマーク数を獲得してください」…なんて言われるかもしれませんね。
そう。どんなコンテストでも、高い評価を博するカリスマ絵師が大勢エントリーしているから、私が申し込まなくても誰も困らない。
けれども、カリスマではない私でも、自分の技能や性格を尊重される仕事を、探す権利はある。
だから、あきらめずに作品制作を繰り返して、よりよい作品を追求しています。
Pixivで作品募集とか、新しい画像作成ソフトなどの記事を見ると、つい思ってしまいます。
このソフトを使わないと採用されなくなるのか。BlenderやGIMPは時代遅れなのか。そんな風に、つい不安になってしまいます。
でもあれは、私とは違う階層の人たちに向かって言っていることなんだから、私が気にしても無意味なんです。
話題になっているタグをつけて投稿した、超有名メディアの企画に応募するタグをつけた。
そして、採用担当者からは何も返事が無かった。
そんな記録がネット上に残ってしまえば、仕事探しにはマイナスかもしれません。
チャリティー企画のようなものなら、申し込んでもいいでしょう。
作品の評価と無関係のものならば参加してもいいけれど、それなりの収入を目指す局面では、権限を持つ人に顔を覚えてもらわないと。
エントリーの際にURLやPixivの会員番号を伝えれば、印刷した作品の束を持っていく苦労が減ります。私のような庶民が受けるネットの恩恵は、そんなところでしょうか。
だから、Pixivでの作品募集とか、話題のタグだとか、その手のネット上の企画は、私が相手にするものではないでしょう。
採用側の担当者・経営者の、人となりを見る機会こそ目指さなければ。