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すてきな、何もなかった日 [ストーリー - セッション]

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七つの風の翔ける郷の語り部 リンナミーシャ
地上の国に迷い込んだ空飛ぶ少女。親友のシャウラの家に居候している。

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貿易商のシャウラ・ディーミ
おおらかで社交的。数字の計算はミスが目立つ。

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空飛ぶちいさな ドードー・ジェット
人間の国に住み着いたロボット。侵略者ではないので、とくに敵視されていない。


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今回の原稿は、エジプトでの熱気球の事故が発生する前から、データの準備を進めていたものです。被害にあわれたかたがたには、つつしんでお見舞い申し上げます。

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 ゼフィーベの森の山奥に、ドードー・ジェットが住んでいた。
 ある日のこと、ドードーは町の市場に、野菜を持ってやってきた。


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 荷物を降ろしている様子を見て、リンナミーシャがドードーに聞いた。
 「転がって走っているあれも、ロボットなんですか?」
 「うむ。だがロボットとは言うものの、相当原始的なものである。言葉で話しても通じないから、教えてやることがあれば、じかに記憶装置に書き込まなければならん。」
 「原始的、といえば何だか、単細胞生物みたいに見えますね。」



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 こんどはシャウラが言った。
 「値札がついてないわよ。値段が分かるようにしておかなくちゃ。」

 ドードーは答えて、
 「値段はつけなくて構わんのだ。ほしい人には、ただであげるつもりである。」

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 「あら、ただじゃいけないわよ。」
 シャウラがドードーに意見を言う。
 「あのね、お金が必要だから、作物を育てて売っている人が、たくさんいるのよ。市場で野菜をただで配ったら、他の人たちのお仕事のじゃまになるわよ。」

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 ドードーはなるほど、とうなずいた。
 「その通りであったな。しかしドードーは、金に困っているわけではない。必要も無いのに、ひとから金を受け取るべきであろうか。」
 「あなたがお金、要らないんならね、誰かに投資してあげればいいわよ。無駄遣いじゃない使い方っていうのは、あるもんなのよ。」
 「なるほど。」
 「でもさあ、どうしてあなたのうち、野菜の在庫があるの?」
 「うむ。ドードーはランタンカボチャを育てて、燃料作りに使っているのだ。しかし同じ作物だけ育てていると、土によくないのだ。畑のために交替で、ランタンカボチャを植える畑と、カボチャやウリ以外の草花の畑に分けているのだ。」
 「ああ、はいはい。なるほどね。」
 こんどはシャウラが納得していた。

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 リンナミーシャが会話に割りこんだ。
 「一台、足りないですよ。」
 「うっかりしておった! 探さないと。」
 「ロボットでも迷子になるんですか?」
 「ん。あれは原始的な機種なのでな。持ち主の目が届く範囲で動かさねば、乗り物のわき見運転のようなものなのだ…油断であった。」
 「空、飛ぶんですか。」
 「あれは飛ばん。しかし壁や木をよじ登ることができる。」
 「合図を出していますか。音とか光とか。」
 「電波を出して合図してくるのだ。しかしなぜか、今は応答がとぎれている。」
 「するとですね、飛ばなくても行ける場所で、電波をさえぎる何かがあるでしょうか。」
 「うむ。よい推理である。」

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 運河の方から、派手な水音が聞こえてきた。
 「行ってみましょう!」
 即座にリンナミーシャが飛び立った。

 原始ロボットが一台、流れの真ん中で浮き沈みしていた。くるくると全身を回しながら行ったり来たりしていたけれど、泳いでいるのかおぼれているのか、区別はつかなかった。

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 ドードーがもやい綱を持って飛んできた。原始ロボットはその先にしがみついて、岸まで戻ることができた。
 「さびたら大変ですね。漏電とかは、してないですか。」
 「心配ないのだ。帰ってから点検するのである。」

 こうしてドードーはその日、市場の一角を借りて出店した。
 野菜を並べながら、ドードーは話していた。
 「ついでで栽培したものだから、相場の25パーセント引きで売ることにしよう。それから、こっちのはお二人にさしあげるのだ。」
 リンナミーシャとシャウラは受け取った。野菜を詰めた小さなかごだった。
 ついでで栽培したものというせいか、立派に育ったというほどではなかったけれど、色とりどりの野菜を、丁寧に詰めてあった。
 「けれど、ただでもらうわけにはいかないわよ。」
 「ただではない。二人ともドードーのために手伝ってくれた。これはお二人の、知恵や働きぶりへの、お礼である。」

 こんなできごとがあったので、リンナミーシャもシャウラも、それにドードー・ジェットも、今日は有意義な一日だったと思った。
 現金収入はたいした金額にならなかったし、野菜は育ちがいまひとつだったけれど、それでも今日は、時間の無駄ではなかった、と思った。

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