シャウラとキュンメル [ストーリー - セッション]
夢みる赤毛の貿易商 シャウラ・ディーミ
ゼフィーベの一角にある、ささやかな商店の娘。
商人らしく、交友関係が広い。空飛ぶリンナミーシャをはじめ、ふしぎな友人もいる。
一方で、商人にしては、お金の節約が下手。
蝶の司 キャプテン・キュンメルと いもむしラゼンパ
キュンメルは、蝶たちと言葉をかわす、ふしぎな女の子。仲間である蝶たちから、キャプテンと呼ばれる。
ラゼンパ君は最年少のメンバー。最年少だから、まだ、いもむし。
( ほか登場人物については「プロフィール」ページに掲載しています。)
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シャウラの両親が営む店に、キャプテン・キュンメルが買い物に来たのは一度きりだった。キュンメルの現金収入は決して多くはないようだった。
それでも、シャウラとリンナミーシャは、キャプテン・キュンメルと時々会うようになっていた。
キュンメルたちの本拠地がどこなのかは知らないけれど、キュンメルたちの出かけるコースはほぼ決まっていた。雨が降っていない日で、事件の捜査などが無ければ、お気に入りの公園や花畑で蝶たちと過ごすキュンメルに、会うことができた。
時には、いもむしラゼンパもついてきていた。どうやって先輩のちょうちょに追いついたのかは知らないけれど。
手土産をいちいち用意する間柄ではなくなっていたけれど、昼どきだったら、それぞれがランチを持ち寄っていた。
お茶の時間には、キュンメルがハーブティーをいれることもあった。ただし、いろんなハーブを材料に試すので、いつもおいしいとは限らなかった。
そうしたランチやティータイムの間、蝶たちも花の蜜を味わったり、草木のかげで休憩をとったりしていた。
いもむしラゼンパは花畑をのろのろと歩き回っていたけれど、どうやら、いもむしとしては、走り回って遊んでいたつもりらしい。
シャウラは打算や損得を真っ先に考えるタイプではなかったので、キャプテン・キュンメルと会うといっても、事件やトラブルの相談をしようと思ったことが無かった。そもそも、物騒なことに巻き込まれてもいなかった。
リンナミーシャの故郷を探す手助けを頼もうかと思ったことはあったけれども、キュンメルもリンナミーシャのような空飛ぶ民のことは知らなかったので、もしも手がかりが見つかった場合は、という程度のやりとりまでだった。
キュンメルは蝶だけと通じ合っているのではなく、協力する人間もいた。捜査上の秘密だけれど、事件に巻き込まれたのをキュンメルたちに助けられた縁から、援助をするようになった人々などがいた。
キュンメルに情報を提供したり、メッセンジャーの役を引き受けたりする協力者もいれば、蝶たちのために花を植えたり、水飲み場を庭先に置いたり、といったひとびともいた。
けれども、捜査で関わる相手の中には、油断のならない者もいた。違法な行為のためにキュンメルたちを利用しようとたくらむ者もいた。
ある時には、ゴキブリがやってきて、横柄な態度で言っていた。 ― 人間どものすみかのことなら、何でも知っているぞ。謝礼がたっぷりあれば、お前らを手助けしてやる。
こういう類の相手にしかるべき対処をするのは、決して愉快なことではなかった。
そんな日々だからこそ、事件などと関係の無い友人は大切だった。気をゆるめることができない場面を知っているから、安心してつきあえる相手に出会えたら、ともにすごす時を大切にしていた。
「事件のことなどに探りを入れてくる方もいますが、あなたがたは、そんなことはなさいませんもの。それに、わたくしどもの時間にあわせて会いに来てくださるのも、とてもうれしいことですよ」
「星の王子さまと、きつね君のような感じですね」
リンナミーシャが感想を話した。
「身勝手な要求をしてこないことは、すばらしいことではありませんか」
キュンメルは、シャウラにほほえみかけて言った。
「あなたは、ものごとについて好きか嫌いかを、はっきりおもてに見せられます。
それでいて、ご自分の好みを相手へ押し付けることがありませんもの」
「好き嫌いをはっきり言うけど、相手に押し付けない…」
シャウラは考え込んだ。
「それって、どう違うのかしら。あたし本当に、そんな微妙なことしてたの?」
ようするに、リンナミーシャとシャウラも、キュンメルとラゼンパ達も、相手に直接役立てるものは、持ち合わせていなかった。
そうだと分かっていて、純粋に相手への好感から、会うのが楽しかった。
シャウラのいいところは、もうけと関係が無いというだけで、相手に薄情な態度をとらないことだった。
キュンメルのいいところは、捜査と関係の無い相手でも、その人柄を評価していることだった。
だから、たぶん、いもむしラゼンパは、キュンメルから見て、人柄が信頼できるのだろう。
2012-08-07 12:13
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