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おてんばシャウラと遍歴のカーロ [ストーリー - セッション]

貿易商のおてんば娘 シャウラ・ディーミ
貿易商 シャウラ・ディーミ
友達思いで元気がとりえ。商売の腕はいまひとつ。

遍歴のカーロ
遍歴の科学者 エルンスト・カーロ
気さくでおだやか。ただしおしゃべりすると、難しい話題ばかり。

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 空飛ぶ迷子のリンナミーシャが、羽の無い人の住むゼフィーベの国へ迷い込んでしまったことは、世間では大きな話題になっていない。どこかの冒険家の船が巨大タコに襲われたとか、どこかの大富豪の自家用飛行機が空飛ぶドラゴンに食べられたとか、そんな大ニュースが、いつだってたくさんあるからだった。
 無責任なうわさ話がいくらでも流れてくるように、あてにならない人間も、いくらでもいた。リンナミーシャの故郷を見つける手がかりが必要なのに、情報を探すことにさえ、言い訳をならべて協力しない者もいた。悪い人ではないけれども、よそに仕事を抱えていて、リンナミーシャのために時間も知恵も貸せない人もいた。リンナミーシャが目の前にいるのに、羽で空を飛ぶ人間などいないと言い切る者もいた。
 つまり、人格でも能力でも信頼できて、立場や利害の食い違いも無い、という人物は、リンナミーシャの周りには、多くはなかった。これはリンナミーシャたちに限らず、誰にでも当てはまる事実だけれど。そしてリンナミーシャにとって、そういう数少ない友のひとりが遍歴のカーロだった。

「人格も能力も信頼できて、立場や利害の食い違いも無いような友は貴重さ。きみやぼくに限らず、誰にでも当てはまる事実だけどな」

 というような、なんだか難しい話題を持ち出すのも、たいていカーロだった。


 遍歴の科学者なので、つまりは修行の旅をしている半人前なんだけれど、シャウラの家にたずねてくると、調子の悪い電気製品を修理するのと引きかえに、昼ごはんをごちそうになったりしていた。

 ただ、リンナミーシャの目から見て、シャウラとカーロは、ちぐはぐだった。何かと違いが目につくので、なぜ二人が友人なのか、分かりにくかった。

 カーロは、故郷では裕福な家の生まれだというけれど、どのくらい裕福か聞いてみると、毎日食べ物があって、読み書きを習うことができるほどだったということらしい。
 シャウラは自分のことを、平凡な庶民だと思っている。でも、シャウラの住まいはリンナミーシャの故郷の実家よりも大きいし、間違いなくカーロよりも恵まれていた。
 シャウラは、いつも誰かと一緒にすごしたい性格だけれども、カーロは孤独を愛するタイプで、ひとりで思索にふける時を大切にしていた。
 シャウラは紅茶が好きで、カーロはコーヒーが好き。ちなみにリンナミーシャは、どちらにしても甘いお菓子のお茶うけがほしい。

 こうしてみると、なんとも共通点の無いとりあわせだなあ…そう思ったところで、リンナミーシャは気がついた。
 二人の共通点は、自分と似ていない相手と友達になれることだった。

 似たもの同士でしか仲良くなれず、似たもの同士だけで徒党を組むような者は、世の中にはいくらでもいた。
 故郷にもいたことを、リンナミーシャは思い出していた。スズメの羽をした人々が、いつも大勢集まっていたものだった。早口で何かおしゃべりしながら、せわしなくはばたいていた。ほかの誰かが通りかかると、いっせいに飛び上がって逃げていった。
 そんな集団と逆の心構えだからこそ、シャウラやカーロは、リンナミーシャとも友達になってくれたのかもしれない。二人の心意気は、リンナミーシャにとって貴重なものだった。

 ところでリンナミーシャは、自分にはそんな心意気があるだろうかと、思うときがある。今は独りで異国に迷い込んでいるけれども、これがもしも、大勢で引っ越してきたのだったら、はたしてどうしていただろう。スズメの羽の人たちを、とやかく言わない方が、いいのかもしれない。

「ほんの少し、めぐり合わせが変わるだけで、わたしも、ひとに冷たい臆病者に、なっていたのかもしれないんですね」

 そんなことを思うリンナミーシャに、カーロはこう言っていた。
「今の境遇を前向きにとらえているな。シャウラから、いいことをみならったね」

 シャウラはこう笑っていた。
「心意気とか、もしもだとか、まるで学校の先生だわ。カーロみたいな話し方ね」


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