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リンナミーシャとシャウラ [ストーリー - セッション]

ななつの かぜの かけるさとの かたりべ リンナミーシャ
語り部 リンナミーシャ
羽のある少女。空を飛ばない人の住む国に迷い込んで戸惑っている。

あかげの ぼうえきしょう シャウラ・ディーミ
貿易商 シャウラ・ディーミ
商人の一家の娘。好奇心豊かで友達思い。欲のからむ駆け引きは嫌い。

*** *** *** *** *** *** ***

 ゼフィーベ中心市街の一角に、シャウラ・ディーミの両親が営む店はある。一階が店舗で、二階から上が家族の住まい。シャウラは物心ついたころから、両親が貿易商としてはげむ姿を見ていたし、三階の子供部屋でじっとしているたちでもなかったから、自然と家業を手伝うようになっていった。

 ただ、シャウラは働き者だけれども、仕事を選ぶのは下手だった。大事かどうか考えないで、一心不乱になるのが常だった。確かに商品や帳簿の整理をするような時もあったけれど、ジャムを作るのに熱中した日もあれば、なぜか家じゅうの窓ふきに、一日かけたこともあった。
 そんな毎日は、シャウラへの理解に欠けた者からすれば、単なるひまつぶしと見分けがつかなかった。

「どうしてジルおばさんは、あたしのこと、なまけものっていうのかしら…」

 毎日くたくたになるまでがんばっているのに、周りから認めてもらえない理由が、シャウラにはわからなかった。

 シャウラは勘が鋭いくせに、見落としが目立つ娘だった。リンナミーシャがやってきたときも、シャウラは気付きもしないで、別の何かに打ち込んでいた。いつのまにかリンナミーシャがシャウラの家に連れて来られていて、いつのまにか周りの大人から、仕方ないから面倒を見てあげなさい、と言いつけられていたのだった。
 もちろんシャウラは快く応じて、ふたりはほとんどの時間を一緒にすごすようになった。リンナミーシャの故郷を探す、ほんの少し長い月日はこうして、いつのまにか始まっていた。


 リンナミーシャは一見、ぼんやりした娘のように思われていた。羽があって空を飛ぶからか、雲のようにとらえどころが無い雰囲気があって、リンナミーシャにかかわることを嫌う者もいた。シャウラは良くも悪くも深く考えない性格だから、リンナミーシャから聞かれたことには答えたし、リンナミーシャに隠すようなことも特に無かった。

 リンナミーシャは語り部、故郷では記録や情報の管理に従事していた。それがどんな意味か、シャウラにも次第にわかってきた。ぼんやり者などではなく、いつも空の高みから四方を見渡しているような少女だった。シャウラと同様、飲み込みは早いけれど、シャウラと違って、目の前の物事しか見なくなる時が無かった。

「あら、あたしってば、うっかりしてたわ。ジルおばさんのだんなさんて、なんていう人だったかしら」
「シャウラは、うっかりしてません。ジルおばさんにはまだ、だんなさまはいません」

 言うべきことがあるときには物おじしない、芯の強さがあった。それでいてシャウラにも、ほかの誰に対しても、見下した態度をとることが無かった。

 ふたりは、互いを支えあう、よくできたペアになっていた。リンナミーシャは、相手を色眼鏡で見ない友人がほしかったのだし、シャウラは、いわば荒れた海を突き進む船のような性格だから、舵取りに長けた誰かが必要だった。

 やがてシャウラには、この新しい友からの影響があらわれてきた。直感的に突っ走るのはあいかわらずなのだけれど、仕事を選ぶ目が育っていた。
 たとえば、リンナミーシャが、ゼフィーベよりも南のどこかの生まれらしいので、シャウラは北の地方にかかわる用事は引き受けなくなった。大切ではない用事は身内の誰かに任せたり、直接出向くことなく、手紙のやりとりだけで終わらせたりした。

 リンナミーシャの役に立つことを増やしてあげたい、ということは、リンナミーシャに無関係なことへ、気力をふりしぼる必要は、もう無かった。ふたりでピクニックに行ったり、映画を見に行ったりする休日が、自然とできるようになった。

 そうして、いつのまにかシャウラには、有能という印象がついてきていた。稼ぎは増えても減ってもいないのに、あいかわらずのおてんばなのに、周囲の見る目が変わっていった。

「そういえば、ジルおばさんて、このごろ見かけませんね」
「そうねえ…きっとどこか、よそで誰かに文句つけているのよ」

 ふたりは周囲の評判には気付かないまま、今日も世界各地の手がかりを調べている。
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