小銭の無情 [ストーリー - ホームタウン]
カーロが、コインを一枚、落としてしまった。
転がったコインを、リンナミーシャが羽の先で器用にすくい上げて、手にとってカーロに差し出した。
「ありがとな。」
「いいえ。でも、思い出したんですけど。」
リンナミーシャの頭に浮かんだのは、レ・ミゼラブルのある場面だった。
「ジャン・バルジャンが、悪者だった頃のくせが、まだ抜けていなかった頃です。小さな男の子が小銭を落としたら、ジャン・バルジャンがおどして、横取りしてました。」
「そうだったね。坊やのコインを踏みつけて、返してやらなかったんだよな。…ああいうのは、よくあることさ。ああいうことをするやつらは、すきを見せるやつが悪い、とか言い張るんだよな。」
「よくあること、なんですか。」
リンナミーシャは少し考えてから、カーロをまっすぐ見つめて、言葉を続けた。
「普通だから、とか、みんながそうしているから、なんていうので、何が正しいのか、決めるわけがないです。わたしは、落し物を拾って、返してあげました。この方がいいと思ったからです。」
「そうだね。ぼくもそうしたい。それが紳士的ってものだ。」
カーロの返事は、リンナミーシャに答えているというより、自分に言い聞かせているようだった。
「ひとをおどして小銭を奪っても、後味が悪いだけさ。まして、『みんながこうやっているから』なんて言い訳を持ち出してくるんじゃあ、せこい話だぜ。」
「ちっとも、立派じゃないですね。…つまりですね、相手のひとがうっかりした時は、自分が善良な紳士か、せこい悪党かの、分かれ道なんですね。」
「まあ、そうなるな。」
カーロはそこでひと息ついて、穏やかな調子に戻った。
「それにしても、レ・ミゼラブルを読んでるのか。いい本を選んでるな。」
「あ、まだ、読み始めたばっかりです。」
*** *** おまけ *** ***
先ほどのコインの画像は、こんなふうに作成しました。
2013-03-18 12:09
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