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町のかたわらの観覧車 [ストーリー - ホームタウン]

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 シャウラが住んでいる町のはずれには、小さな古い観覧車があった。
 大昔の富豪が、大勢の職人や召し使いを集めて築かせたのだと言う。
 その頃は機械仕掛けの設備そのものが珍しくて、富豪は観覧車を見せびらかしては、他の金持ちが建てたピラミッドやモアイを笑い飛ばしていた。
 ところが、遠い土地からも、ニュースが伝わってきた。大きな回転木馬がある町の話、お化け屋敷があるお城の話、ジェットコースターを持っている王様の話。
 観覧車だけが、ものすごい名物ではないのだった。
 富豪は機嫌が悪くなって、観覧車を人へ見せることも、職人に手入れをさせることもやめてしまった。

 シャウラが幼い頃のことだったが、ある男が町にやってきたと言う。
 男は、町で一番大きな家を買い取って、そこに一人で住みついた。
 それから男は、町外れの古い観覧車を買い取った。
 建築家などの技術者を大勢雇って修理をさせたのだが、それが終わると誰もかれも追い払って、誰一人として観覧車に乗ることを許さなかった。
 そんなふうに大金を使いながら、その男はいつも、金が足りないと文句を並べていたと言う。
 ある時、その男は町から出て行った。家も、それに観覧車も、手入れをする金が足りなくなって、町に捨てていった。



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 ある日のことだった。シャウラは貿易商の一家の娘なので、その仕事の手伝いで出かけていた。
 「シャウラ、めずらしいですよ。今日はクプーリテも、あんなに出てきています。」
 一緒に来ていたリンナミーシャがそう言った。
 けれどシャウラは「クプーリテって、いったい何?」と聞くことも忘れて、別のことを思い浮かべていた。

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 道端に、廃材で遊ぶ子どもたちがいた。街並みの屋根の向こうに、打ち捨てられた観覧車がたたずんでいた。
 シャウラはつぶやいた。
 「遊び場があればいいんだから、あの観覧車、使えばいいじゃないの。」

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 シャウラの家族は、代々この地で貿易商をしている。
 貿易という仕事は必ずしも、いつも品物や現金のやり取りをしているわけではない。
 売り手や買い手を探す仕事、よその売り手と買い手の間を仲介する仕事、相手が、ちゃんとした取引ができるどうか、信用面を調べる仕事、つまり情報交換が大きなウェートを占める。
 それでシャウラは当然のように、多様な相手と連絡を取ることから始めた。
 どんなアイデアがある場合には、誰に、どんなタイミングで、話を切り出せばいいのか、シャウラはごく自然に心得ている。
 本人は自覚していないけれど、それがシャウラの特技だった。
 先日の街角でシャウラが気付いたとおり、父母や学校も、こども達が過ごす場所がほしいと考えていた。
 「するとですね、観覧車と一緒に遊具を配置して、遊び場にするのはどうでしょう。」
 シャウラが集めた意見を、リンナミーシャがそんなふうにまとめた。

 町の商人同士の集まりでも、観覧車の話題を出してみた。この町を華やかで快適に見せる名所があればいいと、多くの商人が認めた。
 ただ、観覧車の遊び場をどうやって維持するのか、意見が分かれた。
 つまり、観覧車に乗る子どもたちから料金を集めるのか、それとも役所に頼んで、税金から費用を出して無料にするのか、という議論だった。
 問題の観覧車を一般開放した前例がそもそも無かったので、どうするのが正解なのか、誰にも分からなかった。
 シャウラは思い切って、ここで資金を集めようと言い出した。シャウラや町じゅうの商人が創設した基金で、まずは観覧車を買い取ってスタートしようと言うことだった。
 有料か無料かについては、リンナミーシャが気付いたことを話した。
 「おやつを買いに行くことの延長と思ってはどうでしょうか。こども達がおこづかいの使い方をマスターするのは、きっと将来の役に立ちます。」

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 もちろん、費用節約のために数多くの工夫をした。
 遊び場に花壇を造った日には、リンナミーシャもシャウラも、弁当持参で手伝ったのだった。



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 こんないきさつで、観覧車のある遊び場は開園した。
 確かにいそがしい数ヶ月だった。知恵を絞って、たくさんの人に協力を求めて、町じゅうを歩き回るような日々だった。
 けれども、そんな日々を振り返って、シャウラは気がついた。
 「ずいぶんスムーズにできたわね…何ていうか、長い道だったけど、障害物は無かったような気がするわ。」
 「ええとですね。あったんですよ。シャウラは、知らずにちゃんとよけていたんです。」
 「よけていた?」
 「昔の大富豪さん達がつまづいた障害物は、今も世の中にころがっているんです。」

 独り占めしたいから、自慢して他人を見下したいから、自分のためにお金をつぎ込むという人々は、確かにいる。
 そうではなくて、誰かをもてなすためだから、賛同者も集まりやすくなり、手間も費用もかけることが、理解されるようになる。
 「みんなを笑いものにしてやりたいんだーっ、て言って、分かってもらえるわけが無いんです。シャウラがとった方法は、その正反対だったということです。」
 そんな指摘を、シャウラは自分なりに消化してみた。
 「お客さんにおもてなしする時だから、おしゃれをする意味がある。念入りに着飾っても、独りで鏡に向かっているだけじゃ、周りのみんなから分かってもらえなくなっちゃう…そんなところかしら。」

 ところでリンナミーシャは、羽があって空を飛べる。
 けれども、たまに観覧車に乗ると、結構楽しい。
 なぜなのか、リンナミーシャにも、よく分からない。

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