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望む先へ飛ぶ前に [ストーリー - ホームタウン]

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 晴れ渡る空を背にして、青い水面に水上旅客機が降りたつ。
 それをリンナミーシャは上空から、じっと見ていた。風に乗って埠頭の空を旋回しながら、無線機を手にしていた。

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 「異常ありません。まっすぐ進んでください。」

 港には、シャウラと町の人たちが数人待っていた。シャウラの新しい飛行機を出迎えるために集まった、仕事仲間だった。
 シャウラの飛行機、と言っても、個人的なレジャーに使う乗り物なんかではない。シャウラが代表になって資金を集めて買った、立派な商売道具だった。

 交通機関専門の企業でも官庁でもない市民が、航空機や船舶を持っていて、必要とする相手に貸し出すようなビジネスは、決して珍しくない。持続的な需要のある区間で活動すれば、長期契約を結んで、交通会社の定期便のように、地元で受け入れられてゆくこともある。ゼフィーベの市民は、やりたいことがある時、自分から行動を起こすのが好きな気質だった。
 シャウラはゼフィーベで生まれ育った娘そのもので、ほしいものがあっても、大金持ちや政治家の顔色をうかがう発想などかけらも無く、自力で購入した旅客機の到着に、無邪気に大喜びしていた。

 「これが、あたしの飛行機なのね。…われながら、たいしたことを始めたものだわ。」
 「よくできた飛行機なんですよ。12人も乗れるんです。エンジンがふたつあって、安全基準をクリアしてますから、町の上を飛びたければ、ちゃんと許可もおりるそうです。」

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 リンナミーシャも、珍しくよく話した。リンナミーシャなりに、喜んでいるようだった。

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ゼフィーベという名前の国 [ストーリー - ホームタウン]

 はなやかな都会でもなく、かといって雄大な自然の風景もない、どこにでもありそうな、小さな舞台です。
 物語の舞台というものは、中心軸になるものがあってはじめて、かたちを成すものです。どんな主人公があらわれるのか、あるいはどんな事件が起きるのかによります。
 こういう国があるから、こんな人物がいる、という手順で作り上げていく物語もあるのでしょう。けれども、ゼフィーベという国をかたちづくってゆくときには、こんな主人公がやってくるのだから、きっと、こういう場所なんだろうな、という順序の、推理ごっこをしているんです。優先するのは、伝えたい物語にふさわしい舞台かどうか、ということです。
 ジョバンニやグスコーブドリにとってのイーハトーブのようなもの、かもしれません。あるいはドロシーにとってのオズの国、かもしれません。
 けれども、ゼフィーベという国へ迷いこんだ少女の名前はドロシーではなく、リンナミーシャといいます。
 
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ふしぎな国を みつけました
羽のない 空をとばない人の国

 わたしたちにとっては、ゼフィーベなどという国なんて、めずらしくもないものでしょう。けれどもリンナミーシャにとっては、生まれて初めて見た、おどろきの世界でした。だれひとりとして、羽を広げて空をとんでいないのですから。そして、ただおどろいているわけにもいきません。空のかなたのどこかにある、リンナミーシャのふるさとへ、帰らなければならないのです。
 リンナミーシャの帰り道をさがす、ほんの少しながい月日が、はじまったのでした。
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