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剣、無知、貧困。 [メイキング - ワークスタイル]

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 蝶の司キャプテン・キュンメルは、剣を持っています。自らの意思を持ち、不思議な力を発揮する剣です。

 昨年、漫画を執筆していて工夫したことのひとつが、この剣の位置づけでした。

 作品の中では、剣は誰かに直接切りつけてはいません。敵の隠れ場所をあばいたり、障害物が埋め尽くす地面を切り開いたりしています。

 武器にしては回りくどいようですが、物事を本当に解決するって、こんなものではないでしょうか。



 イベントやウェブ上での作品公開を始める前の話ですが、キャプテン・キュンメルを考案したばかりの頃には、私もまだ古い発想を抱えていました。

 剣や銃を持つヒーローが悪人を叩きのめすシナリオを、作れるようにしておくつもりだったんです。

 けれども、何度か検討作業を重ねるうちに、そんなシナリオを作るのは損だと、分かってきました。

 来る日も来る日も新しい敵や、悪事の手口を考える、不愉快な検討作業になるんです。

 敵を探して戦うのが楽しいとは、私は思いません。自分の価値観や性格をPRするという目的から外れてしまいます。



 悪の化身の何者かがいて、困難の原因は敵の妨害工作、という発想も幼稚です。

 作品を作っていて予定が狂ってしまう時だって、現実に私の周りに何者かが現われて妨害してくるわけではありません。

 自分が知らないことにチャレンジして、予想以上に時間が足りなくなる。
 自分が知っていることだけで固めるために、ハードルを低くしすぎて、完成させても物足りない作品に終わる。

 そんなものです。誰かに八つ当たりしたいのならともかく、実際の障害は、物言う人ではないのです。

 鉄砲やナイフを振りかざすことにこだわれば、困難に本当に立ち向かうすべを見失ってしまいます。

 剣や銃をもって、争いに真の解決をもたらすことはできません。『レ・ミゼラブル』に関してユゴーが記していた事でもありますが、争いをもたらすのは無知と貧困です。暴力に目がくらんで理性的な行動を取らなくなる人や、貧しいために横暴な権力者や犯罪者に逆らえなくなる人が増えてゆくことを、地道に防がなければならないんです。

 権力者の思惑が割り込むことの無い教育があること、市民の言論や生活面の不自由が無いこと、貧しい人や少数派の人を寛容に受け入れること、それが私たち、税金を納めている庶民にとって必要なことです。それを後回しにして軍隊とか国防とかに力を注ぐのは、外科手術の設備を整えながら、うがいや手洗いをしていないようなものです。健康的ではありません。

 周囲を挑発するような行為を控えること、誤解を招く言動をしないことが優先です。銃やミサイルの調達などではありません。

 緊急事態が起きた時に、国家権力がどれだけ強い権限を握るかではなく、どんな事態になろうとも、私たち一般市民が生活や収入、財産を取り上げられることが無いか、自由な言論が守られるかが重要です。

 自由が保障されるということを、無責任で身勝手な行為が許されることだと勘違いするのが無知です。
 市民が生活に困って、暴君や犯罪者の奴隷か兵隊にならざるを得なくなることが貧困です。
 しっかりした教育や労働環境こそが、暴力が無いと生き抜けない状況を生み出さないための対策なんです。

 剣を振りかざして脅しても、誰かに罪を背負わせて切り殺しても、真の解決にはたどり着けないのです。

 せっかく、剣を小道具の一つとして作品上に配置しても、作品の核心に迫れないチープな代物で終わらせては、もったいないじゃありませんか。

 ですから、剣は今度登場する時にも、何かひと工夫した出番にするつもりです。



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